松木玖生のPK失敗よりも…「後半に落ちるチームはW杯にいない」U-20日本代表がコロンビアに突きつけられた“試合の機微と強度の欠如”

 土壇場でゲームを振り出しに戻すはずのボールがバーを叩いたとき、日本の敗戦は半ば決まった。

 エースが、まさかのPK失敗――。

 痛恨の極みといった様子で天を仰ぎ、両手で顔を覆った松木玖生(FC東京)は試合後、その瞬間についてこう振り返った。

「もっと平常心でコースを狙えばよかったですけど、自分の中で真ん中に強いボールを蹴ると決めていたので……」

 アルゼンチンで開催されているU-20ワールドカップのグループステージ第2戦。日本はコロンビアに1-2と逆転負けを喫してしまった。これで1勝1敗となり、なんとか2位につけている。

 82分に獲得したPKを松木が決めていれば、勝ち点1は取れたかもしれない。

 しかし、コロンビアと日本の間に、決して小さくない差があったのも事実だ。左サイドハーフとして先発した北野颯太(セレッソ大阪)は「すべてにおいて相手のほうがひとつ、ふたつ上やったかなと思います」と評した。

ビルドアップ、セットプレーには工夫が見えた

 もっとも、前半の出来は決して悪くはなかった。

 ボールを支配したのはコロンビアだったが、日本もただ守っていたわけではない。試合前、センターバックの田中隼人(柏レイソル)が「コロンビア戦ではもっとビルドアップしていきたい」と語っていたように、日本もボールを動かして攻撃を構築したり、ゲームを落ち着かせたりする時間を作れていた。

 その際、カギを握ったのが山根陸(横浜F・マリノス)の立ち位置だ。サイドバックとセンターバックの間に臨機応変に落ち、ビルドアップを助けるとともにサイドバックを押し上げる役目を果たす。山根が振り返る。

「全員がいいポジションを取ってボールを運ぶというのがチームのコンセプト。その中で2センターバックが相手2枚に見られていたので、最初は間で覗いていましたけど、センターバックも出しづらそうだったので、一回割り切って外にポジションを取ってみたら案外受けられた。

 そこで相手がどう変化するか見ていたんですけど、修正する感じがなかったので、(福井)太智(バイエルン)と玖生との距離感だけ離れすぎないように意識して、うまくボールが入った。自分が前を向いたときもみんながいいポジションを取れていたので、 僕としては窮屈感も孤独感もなく、やりやすかったです」

 16分には右サイドバックの高井幸大(川崎フロンターレ)が右サイドを突破してクロス。ファーサイドで待つ松木に届く寸前で相手DFにクリアされてしまったが、決定機を作り出すことに成功した。

 29分にはチェイス・アンリ(シュツットガルト)の縦パスを収めた熊田直紀(FC東京)がスルーパスを繰り出し、北野のシュートからコーナーキックを獲得する。このセットプレーを鮮やかに先制点に結びつけてみせるのだ。

 福井のショートコーナーから北野のヒール、福井のマイナスのクロスから山根が蹴り込んだ一連のプレーはトレーニングの賜物で、「自分たちが狙っていたとおり」と福井も手応えを滲ませた。

後半の失速、ピッチで何が起きていた?

 それだけに残念だったのが、後半の失速である。

 ギアを上げてきたコロンビアの激しいフィジカルコンタクトとスピードに飲み込まれ、53分、59分と立て続けに失点を喫してしまう。

 1失点目の場面では、ドリブルで仕掛けてきた相手の左ウイングに高井がアプローチした瞬間、裏に抜けた相手の左サイドバックにパスを通され、右サイドを攻略された。

 2失点目の場面でも、スローインから高井と山根の間を割られ、またしても右サイドから侵入を許してしまった。

 それ以外にも、センターバックが前のスペースを埋めに行った瞬間、相手のウイングがその背後に走り込むなど、コロンビアは南米のチームらしくスピードに乗ったときの技術が確かで、裏の取り方がうまかった。

 また、1失点目は北野が相手の右サイドバックに競り負けたところが起点になっている。左サイドバックの松田隼風(水戸ホーリーホック)も対面の右ウイングの突破に手を焼かされるなど、デュエルでも遅れをとった。

先制点を奪った後、もう1回ギアを上げられるか

 後半に入って主導権を完全に譲ってしまう様子は、セネガルとの初戦に通じるものがあった。

 なぜ、後半に入ってギアが落ちてしまうのか――。

「両試合とも先に点を取ったので、その1点を大事にしたくなる気持ちがあるのかなと思います。もっと思い切りやってほしいし、もっともっとできる選手たちなので、その辺は自分のマネジメントで選手の力を解放してあげたい」

 冨樫剛一監督はそう分析し、自身に矢印を向けた。ワールドカップという大舞台だけに、そうした守りの心理が働くのも仕方のない面がある。

 一方で、コロンビア戦に関しては、試合巧者の相手が勝負どころで出力を上げてきた面もある。同点に追いつかれ、浮き足立つ日本に対してコロンビアは、ここぞとばかりに畳み掛けてきた。

 冨樫監督の言うところの、試合の機微――。ゲームの流れを読む力、90分におけるメリハリは、日本のチーム全般に欠けているものだ。

 また、普段の環境以上の強度に晒されているため、日本の選手たちの消耗が想像以上に激しい面もあるだろう。これは一朝一夕では解決できない問題で、今大会においてはチームとしての戦い方によってカバーしていくしかない。

「身体能力やスピードで劣るところはあるかもしれないですけど、日本の強みはチームとして戦えるところ。セネガル戦で最後、後ろを5枚にしたのも自分たちでやったこと。自分たちで考えてやれるのも強みなので、しっかり修正してベースの部分は続けていけば、イスラエルには勝てると思います」

 田中がそう力を込めれば、山根も修正を誓う。

「後半になって落ちるチームはワールドカップにはいない。僕らもそこでもう1段階、相手よりもギアを上げられるかどうかが大事になってくる。セネガル戦も後半になって自陣に引きこもるシーンが多かったので、もっと強気にいかないと。チーム全体でバラバラにならないことが大事なので、みんなで修正し合っていきたいと思います」

福田、永長ら各選手の起用の目処は立っている

 セネガル戦、コロンビア戦の2試合で菊地脩太(清水エスパルス)以外のフィールドプレーヤーがピッチに立った。「相手を分析して、その相手に勝てるメンバーを起用する」と総力戦を打ち出す冨樫監督にとって、選手全員に起用の目処が立っていることは大きい。

 コロンビア戦で途中出場した福田師王(ボルシア・メンヘングラードバッハ)と坂本一彩(ファジアーノ岡山)の2トップは、スタートから起用して多くの時間を与えれば、相手への脅威となりそうだし、初戦で不出来に終わった永長鷹虎(川崎)も途中出場したコロンビア戦ではらしさを発揮した。

 グループステージ突破が懸かった第3戦で指揮官は、どのメンバーを送り出すのか。運命のイスラエル戦は5月27日18時(日本時間28日6時)にキックオフされる。

2023-05-26T02:08:56Z dg43tfdfdgfd