◇渋谷真コラム・龍の背に乗って
◇25日 広島2―8中日(マツダ)
待ちに待った8試合目。粘りに粘った98球。苦しみの先に、梅の花が美しく咲いた。
「勝ててよかった」と胸をなでおろし「ホッとはしていません」とプライドをのぞかせた。6回途中でマウンドを降りるまで、7安打を浴びた。それでも過去7試合で僕が感じていた柳への不安が、今回はなかった。その正体が柳の「決断」にあったのだと、試合後に知った。
「野手、ファン、記者の皆さん、全ての人が見たり感じたりする自分を意識したんです。マイナスオーラを絶対に出さない。そう決めていましたから」
自分では投げきったと思った1球に、審判の手が上がらなかったら、ホームに背を向けていた。ストライクが欲しい、アウトを取りたいとあがいていた。そうすればするほど、逆の結果が出る悪循環。だから「姿、雰囲気を変えたつもりです」。それが柳の「決断」だった。
「僕、本当にあこがれの投手だったんです。めっちゃテンション上がりました」。転機は23日の試合前だったのかもしれない。ふと一塁ベンチを見ると、黒田博樹さんが談笑中だった。持ち前の行動力とコミュニケーション能力を発揮して、あっという間に駆け寄った。「柳です! 勉強させていただいてます」とあいさつし「柳くん、知ってるで。声かけてくれたらいつでもアドバイザーになるで」と返してくれた。
黒田さんが人生におけるさまざまな決断を振り返った著書「決めて断つ」を、柳は何度も読み返している。何かを決めるとは、他の何かを断ち切ることにある。なぜ勝てない? なぜ援護がない? 全ては自分ではコントロールできないこと。だから彼は自分を変え、白星をたぐり寄せた。
「耐雪梅花麗」。西郷隆盛の漢詩にある言葉が、黒田さんの座右の銘だ。「雪に耐えて梅花麗し」と読み下す。厳しい冬を越えるからこそ、梅の花は美しい。苦難も不運も乗り越えて、柳は麗しい花を咲かせたのだ。
2023-05-26T01:57:18Z dg43tfdfdgfd