ゴルフの実力もさることながら、バラエティー番組でも歯に衣(きぬ)着せぬ物言いで人気を博したプロゴルファーの古閑美保さん(41)。【前編】では、引退直後に始めた趣味探しや、ゴルフから距離を取ったことで考えたことなどを語ってもらった。【後編】では、現在まで続く女子プロゴルフ人気に関して思うことや、離婚を経験したことで変化した結婚観などについて聞いた。
【前編】<元賞金女王「古閑美保」が語る“引退を決意した日”と“ゴルフから離れたかった2年間”>より続く
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古閑さんは「ビジュアル系ゴルファーの元祖」といわれている。へそ出しファッション、派手な化粧、ネイルにピアスなど、その外見でも世間の話題をさらっていた。
ゴルフは紳士淑女のスポーツ。派手なファッションでプレーする古閑さんに対して、当然批判もあったという。
「Tシャツでゴルフするのはどうの、ピアスやネイルがこうのみたいなお叱りの声がよく届いていました。けど、全く気にしませんでしたね。私、そういったことにめげないタイプなんです」
何事もなかったかのようにさらりと言ってのける。むしろこういった声が古閑さんの反骨心を刺激した。
「ツアーの最終日に、わざとTシャツを着て、目立つピアスやネイルを付けていました。どれも違反じゃないんですよ。Tシャツはゴルフメーカーが出しているものでしたし、ネイルを付けてはいけないとか、大きいピアスはダメなんて決まりはないです。だから『なんでやめなきゃいけないの?』って思っていました。人に言われたからやめるっていう考えはなかったですね。全部私がやりたいからやっていることなので」
ネイルは、そもそも爪が割れてしまうのを防ぐという目的でつけていたものだった。また、化粧にも古閑さんのこだわりがあったのだという。
「私、ゴルフのときはメイクを普段と変えてるんです。やっぱり勝負事のときは、アイラインをしっかり引いて、眉毛も太くして、マスカラもばっちりしていました。強く見せたかったので。ゴルフ場に入ったら、普段の私とは違う『プロゴルファー・古閑美保』っていう別人をつくり上げたかったんです」
19歳で古閑さんがプロ入りしたとき、ゴルフ界を引っ張っていたのは30代半ばのゴルファーだったという。
「賞金ランキングのトップ10には、不動(裕理)さんを除いて、20代はほとんどいませんでした」
それから数年後、宮里藍や横峯さくら、上田桃子らが活躍を始め、女子プロゴルフ人気が高まっていく。競技者としてその渦中にいた古閑さんは、当時をこう振り返る。
「私がプロ入りしたとき、女子プロの人気はそんなに高くなかったんです。でも、2~3年してから状況が変わってきた感じがありました。私やその下の宮里、横峯、上田たちが、“絶対女王”の不動さんに挑んでいくっていう構図ができてきたんです。そこから、女子プロの人気が出てきたと感じています。大会の賞金額や試合数が増えたり、これまでの大企業とは違ったIT企業が大会の主催者になったり。テレビの視聴率も上がっていって、人気の高まりを肌で感じていました」
現在でも渋野日向子、山下美夢有、小祝さくら、稲見萌寧ら人気と実力を兼ね備えたゴルファーが続々と出てきており、女子プロゴルフも百花繚乱(りょうらん)の時代を迎えている。
「私がプロになったころと違って、今は20代の若手がたくさんいて、優勝したのに次の年にはシード落ちしてるとか、入れ替わりも激しい。競争率は高くなっていますけど、チャンスもたくさんあるので、すごくいい時代だと思っています」
ゴルフの技術のみならず、テレビ番組での“ぶっちゃけトーク”も古閑さんの魅力だ。恋愛話はたびたびお茶の間の話題になった。
「正直にしゃべりすぎちゃうんですよね(笑)。恋愛しているときは、好きな人のことが頭から離れなくなりますよ。やっぱり恋愛って心を揺さぶられるものじゃないですか。でも、それとゴルフは別物で。メンタルが落ちているときも全く成績に響かなかったです(笑)。結局、練習しているかしてないかが全てですから」
古閑さんは一昨年、離婚も経験した。そのことで価値観にも変化があったという。
「当時は、結婚をすっごくしたいと思っていて、恋愛と結婚というものが結びついていたんです。でも離婚して、それまで持っていた結婚観も変わりました。恋愛のゴールは必ずしも結婚じゃないんだなって。再婚ですか? 全然考えてないです。でも私、言ってることがコロコロ変わるからな(笑)。少なくとも今はそう思っています」
最後に、古閑さんにとって「忘れられない一日」を聞くと、「甥っ子の大和が生まれたときかな」と返ってきた。
「私、親に溺愛されて育っているんです。それもあってパパっ子ですし、ゴルフをやっていたのも父の喜ぶ顔が見たいっていうのがモチベーションでした。それなのに、父の愛情が全部大和に行っちゃったんですよ(笑)。家族の関係性を変えたのが彼なんです」
とはいえ、古閑さんも甥っ子を溺愛しているのだという。
「彼が生まれてから、妹に『ちょうだい』ってずっと言ってます。今度15歳になるんですけど、本当に可愛いいんですよ。イケメンになってきて、声変わりもしてきて」
彼はアマチュアボクサーとして活躍している。
「古閑家は、やっぱり『プロ志向』なんですよね。初めて見に行った試合が、山中慎介対ルイス・ネリの世界王者のタイトルマッチですから。古閑家って世界一を見せるんですよ。だから、大和も世界チャンピオンが夢って言ってます。今年の5月にある井上尚弥対ネリの試合も見に行きたいねって話してます」
ただ、そんな甥っ子の活躍を、古閑さんは手放しには喜べない面もあるのだとか。
「本人が楽しくやっているのはいいんですけど、見てるこっちとしては、ケガをしている姿とか、負けて泣いている様子はね……。でもやめるように促すことはできないですから」
取材中、常に自信に満ちた雰囲気をまとっていた古閑さんが、唯一いじらしい表情を浮かべた瞬間だった。
(AERA dot.編集部・唐澤俊介)
●古閑美保(こが・みほ)/1982年、熊本県生まれ。10歳からゴルフを始め、中学2年時には日本ジュニア、世界ジュニアで優勝。2001年1月から元日本女子プロゴルフ協会会長の清元登子に弟子入りし、同年8月、19歳でプロテストに合格。03年、ヨネックスレディスで初優勝。08年には賞金女王を獲得。11年、ケガが理由で引退した。その後は、テレビ番組やYouTube、講演会などに出演し、ゴルフの魅力を発信している。
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