「VARがなければレッドどころか…中国は意図的に」日本通ブラジル人記者が斬るU-23初戦と長谷部誠引退「監督でも欧州で成功してほしい」

 16日にドーハ(カタール)で行なわれたU23アジアカップ(パリ五輪アジア最終予選を兼ねる)グループステージ初戦の日本対中国は、意外性に満ちた試合だった。

 3月中旬から約3カ月の予定で日本に滞在しているブラジルのスポーツメディアきっての日本通チアゴ・ボンテンポ記者(38)にこの試合をテレビ観戦してもらい、感想を聞いた。

久保や彩艶は当然だが、唯人や福井も…

――まず、この大会に招集されたメンバーをどう思いましたか?

「大前提として、欧州組を自由に招集できない、という問題があるよね(注:クラブは年齢制限なしの公式国際大会並びにFIFAが定める国際Aマッチデーには選手を供出する義務があるが、五輪を含む年齢別世界大会ではその義務がない)。FW久保建英(22、レアル・ソシエダ)とGK鈴木彩艶(21、シント・トロイデン)はA代表常連で、いつもクラブに出してもらっているから仕方がないとして、MF鈴木唯人(22、ブレンビー)、MF福井太智(19、ポルティモネンセ)らを供出してもらえず、招集できなかったのは残念。ただ、それは彼らが所属クラブで貴重な戦力とみなされているからで、日本のフットボールの成長を示す証でもある。ブラジルも、同じ理由でパリ五輪南米予選に欧州組の多くを招集できず、敗退した。

 また、日本国内でプレーする選手に関してもFC東京から3人出してもらったので、左SBバングーナガンデ佳史扶を招集できなかった」

――この試合の日本の先発メンバーについてどう思いましたか?

「概ね予想通りだったが、右SBに半田陸(ガンバ大阪)ではなく関根大輝(柏レイソル)を起用したのは意外だった」

――前半8分、日本が幸先良く先制しました。

「最高のスタートを切ったね。右サイドで山田楓喜(東京ヴェルディ)と関根のコンビネーションでチャンスを作り、山田の精度の高い左足クロスを松木玖生(FC東京)がうまくマークを外して決めた」

VARでのレッド…日本にとって良い教訓になったのでは

――ところが、前半17分、CB西尾隆矢(セレッソ大阪)が退場処分を受けて状況が一変します。

「当初、主審も副審も気付かず流していたが、VARで注意を喚起されてのレッドカード。VARがなければ、おそらく何の処分も受けていなかった。中国選手が後方からわざとぶつかってきて、西尾が反射的に肘を振り、そこに相手の顔があった、もしくは中国選手が意図的にそのような位置に顔を置いた、という状況だったと思う。

 これは、コパ・リベルタドーレス(南米クラブ王者を争う大会)などでアルゼンチンやウルグアイの選手がブラジル相手にやる古典的な挑発行為。一種のマリーシア(注:狡猾な振る舞い)だね。ブラジル選手は誰もがその手口を知っているんだけど、それでも餌食になる選手が後を絶たない(笑)」

――ということは、良くも悪くも、中国選手もそのようなプロ選手特有の汚いプレーをする域に達した、ということでしょうか?

「そうだと思う。アジアで日本が圧倒的に強くなると、対戦相手はしばしばこういう手段を用いるようになる。西尾のみならず、日本のフットボール全体にとって良い教訓となった、あるいは教訓とすべき出来事だった。その意味で、西尾の愚行にも一定の価値があったと言えるんじゃないかな(笑)」

身長2メートルGKのパワープレー投入は幸いだったね

――その後、日本はMF山本理仁 (シント・トロイデン)を外してCB木村誠二 (サガン鳥栖)を入れました。

「システムを4-3-3から4-4-1へ変更し、基本的に低い位置で守備ブロックを形成して耐えた。大岩剛監督は慎重なタイプであり、いかにも彼らしい戦術変更だった」

――後半43分、中国はGK登録の身長2mの選手をFWとして投入する奇策に出ました。

「テレビ中継ではアナウンサーも解説者の松木安太郎と内田篤人も、背番号12でGK登録の選手がフィールドプレーヤーのユニフォームを着てFWとしてプレーしたことに戸惑っていたよね(笑)。結果的に彼が大きな脅威とならなかったのは、日本にとって幸いだった」

――1988年から2004年まで、プーマス(メキシコ)やメキシコ代表で活躍したホルヘ・カンポスという身長170cmに満たない小柄なGKがいた。彼は、クラブではしばしばFWとしてプレーしていました。

「そう。今回の中国人GKはカンポスとは真逆の真逆の特長を持ったGK兼FWだったけどね。終盤、どうしても得点が欲しい局面で長身のCBを前線に置いてパワープレーをすることは珍しくないけれど、近年ではカンポスのような例はないと思う。中国も、なかなか斬新な発想をするね」

この試合は一定の評価、マンオブザマッチを選ぶなら…

――今季、FC東京で絶好調の荒木遼太郎は最後まで出番がありませんでした。

「素晴らしいテクニックと創造性を備えたアタッカーで、個人的にはぜひ見たかった。攻撃的なチームを作るのであれば、中盤の構成は藤田譲瑠チマ(シント・トロイデン)、松木、荒木になるんじゃないかな。でも、監督が大岩さんで、しかも退場者が出た状況では仕方がなかったのかな。今後、彼にも出場機会が与えられ、決定的な仕事をしてチームを勝利に導くことを期待している」

――この試合の総合的な評価は?

「一人少ない状況でも、ただ守るだけでなく、2点目を狙い、なおかつ攻撃に時間を使おうとしていた。勝ち点3が取れたのだから、西尾を除くチーム全体に一定の評価を与えるべきだろうね」

――この試合のマン・オブ・ザ・マッチ(MOM)には誰を選びますか?

「GK小久保玲央ブライアン(ベンフィカ)。ファインセーブを連発して、チームを救った。長身で、身体能力が高く、素晴らしい反射神経を備えていて、ハートも強い。

 実は中途半端なパンチングをした場面もあったんだけど、中国選手がいないところへボールが落ちるといった幸運もあった。とはいえ、ブラジルには『良いGKは強運の持ち主』という言い回しがある。運が良いことも、GKの実力の一部なんだ。その一方で、GKの活躍が目立ったということは、いかに危ない試合だったか、という証明でもある(笑)」

松木は中田、本田の系譜に連なる選手だ

――その他の日本選手で評価するのは?

「松木も素晴らしかった。先制点のみならず、試合を通じて攻守両面でチームに大きな貢献をした。彼は20歳だけど、23歳以下のチームでも全く物怖じせず、堂々とプレーしている。FC東京でキャプテンを任されていることからもわかるように、精神的に強く、リーダーシップがある。選手としての特徴は異なるが中田英寿、本田圭佑らの系譜に連なる選手であり、今後、日本にとって非常に重要な選手になるのは間違いない。

 平河悠(町田ゼルビア)も攻守にハードワークをしていたし、藤田は中盤の守備の要となっていた。関根は長身でフィジカルが強く、先制点の起点にもなった。嬉しいサプライズだった。

 CBではまだ19歳の高井幸大(川崎フロンターレ)が落ち着いてプレーしていたし、先制点をアシストした山田、後半途中から出場した佐藤恵允(ブレーメン)と藤尾翔太(町田)も持ち味を発揮した」

CSと左SBの層が薄いことが課題かな

――松木は青森山田高校で黒田剛監督(町田ゼルビア)の指導を受けており、現在の町田もハードワークができてメンタルの強い選手が揃っています。

「そうだね。日本のフットボールはブラジルとドイツの影響を色濃く受けているけれど、町田は日本の伝統的な弱点だったフィジカルとメンタルの強さを前面に押し出すところが斬新。アルゼンチン的と言うか。多様なスタイルを持つチームと選手を持つことは、日本の今後の強化に非常に有益だと思うよ」

――その一方で、不満が残った選手は?

「西尾が筆頭なのは当然だけど、CF細谷真大(柏)はもっともっとできる選手。左SB内野貴史 (デュッセルドルフ)と西尾の代役として途中出場したCB木村はちょっと力不足かな」

――このチームの課題は?

「CBと左SBの層が薄いこと。CBに関しては、西尾が退場処分で少なくとも3試合の出場停止処分となりそうで、ますます厳しい状況となった。最初に話したように、左SBバングーナガンデ佳史扶を招集できなかったのも痛い」

――19日のUAE戦では、西尾の代わりに誰を先発させるべきだと思いますか?

「中国戦で途中出場した木村か鈴木海音(ジュビロ磐田)のどちらかだと思う。格別素晴らしくはなかったけれど、決定的なミスは犯さなかった木村なのかな」

長谷部にはぜひ欧州で監督としても…

――なるほど。それから、別の話題になりますが、17日、日本代表で長くキャプテンを務めたMF長谷部誠(フランクフルト)が引退を発表しました。

「長年、クラブでも日本代表でも素晴らしいプレーを続け、なおかつ傑出したリーダーシップを発揮し、日本のフットボールの強化と発展に多大な貢献をした。

 長谷部がブンデスリーガで長期間に渡って活躍したことが日本選手全体の評価を押し上げ、欧州のクラブが日本選手へ門戸を開くことを促した。今後は、ドイツなど欧州のクラブで指導者としても成功を収め、欧州で評価される日本人監督のパイオニアとなってほしい。将来的には、日本代表を率いて顕著な成績を残すことも期待している」

 いつもながら、チアゴ・ボンテンポ記者は日本と日本のフットボールへの深い愛情を滲ませながらも、忖度も忌憚もない率直な意見を伝えてくれた。

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