アメリカ人に「大谷翔平スゴい」を言わせたい日本メディア…米記者が本音で語る“疑問”「なぜか僕は週に3度くらい日本の記事に登場する」

大谷翔平を近くで取材し続けてきた「ロサンゼルス・タイムズ」記者のディラン・ヘルナンデス、「ジ・アスレチック」記者のサム・ブラム。2人が“忖度ゼロ”で明かした、日本の「大谷報道」への疑問とは? 4月12日発売の『米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像』(朝日新書)より、一部抜粋してお届けします。(全2回の1回目)※文中「トモヤ」は聞き手・訳の在米ジャーナリスト、志村朋哉氏

日米記者「質問の明らかな違い」

トモヤ サムは大谷の一挙手一投足を追う、20~30人の日本人記者たちを見たときは驚いた?

サム そうでもないかな。日本でそれだけの関心を集めていると分かってはいたから。僕はレンジャーズを取材したことがあるんだけど、その時に活躍すると言われていたけどダメだった日本人投手がいた。名前は何だったっけ?

ディラン 有原航平ね。

サム そう、彼にはそこまで多くの記者はついていなかったけど、エンゼルスが遠征に来た時に、大谷を取り巻くメディアがどんな感じなのかは見ていた。僕が一番、印象に残っているのは、日本のメディアとアメリカのメディアの人たちが、そんなにいつも交流しているわけじゃないけど、すぐに仲良くなれたこと。正直言って、大谷がエンゼルスを去って一番悲しいのは、日本の記者たちがいなくなってしまうこと。

 彼らに申し訳なく感じることもあった。生活の拠点をアメリカに移して、遠征地にも行って、全力で取材しているのに、大谷はほとんど話さないんだから。それでも、何とか日本の人たちにとって意義のある記事を書く術を見出していた。

本塁打王、最多勝…は重要ではない?

 僕は日本のメディアのインタビューを受けてきたけど、ディランも言っていたように、アメリカの記者がする質問とは違って興味深かった。たとえば、いつも確率を聞いてくる。大谷がMVPを受賞する確率はどれくらいかとか、本塁打王になる確率はどれくらいかとか。あと、僕らが気にしていないような記録に日本人が注目していたりする。たとえば、防御率のタイトルとか。

トモヤ 分かる。アメリカンリーグのホームラン王とか、最多勝とかね。

サム そう。選手の活躍を測る上で重視される指標が日本とアメリカで違う。面白いなと感じるよ。細かい技術的なこともよく聞かれる。ちょっとピッチングやバッティングの手の位置が変わったこととか、いつもと違うバットを使っているとか、スポンサーが変わったとか。正直、僕はそうしたことは、ほとんど気にしていない。大谷のスポンサーがニューバランスだろうと何だろうと、どうでもいいことだから。日本人選手がアメリカで、アメリカ人選手よりもはるかに優れた活躍をしていることが、日本で話題になっているのは理解できる。だから、大谷についてのあらゆる詳細が、とても重要なんだろうね。

日本人記者たちの「見えない努力」

 日本メディアは、大谷がロッカールームに入るのと出るのを確認するまで帰ろうとしないんだ。ダグアウトで日本の記者たちと話していても、大谷が歩いて出てきた途端に、「どっか行け!」という感じになるんだ。「サム、俺に話しかけるな。この男が、いつもと同じようにダグアウトに出てきて、いつもと同じように外野の壁にトレーニングボールを投げる姿を写真に収めなきゃいけないんだから」ってね(笑)。

 スプリングトレーニングでは、何人もの記者がトレーニング施設近くの岩山に登って、そこから彼の姿を見逃すまいとしている。夜明けから4時間もだよ。もしかしたら、大谷が早く到着するかもしれないからって。毎日、毎日、何があろうと、この小さなことを成し遂げようとする仕事への姿勢を目の当たりにして、とても感銘を受けたよ。

 この2年半で知り合った日本の記者たちがいなくなるのは本当に寂しい。特別な仲間たちだったから。大谷を毎日、取材できなくなるのも寂しいけど、一緒に仕事をした仲間たちとの別れほどではないな。

ディラン サムは、とてもポジティブな見方をしているんだな(笑)。彼らは服役囚みたいなものなんだぞ。僕は一度も日本に住みたいと思ったことはない。なぜ日本の記者たちが山の頂上で待ってなきゃいけないのか分かる? 選手たちに、自分たちも同じくらい仕事に対して真剣だと示さなきゃいけないからだ。それを選手に見てもらえるかもしれないから、あそこで待ってなきゃいけないんだ。酷い話、完全に時間の無駄だよ。

サム 僕は一生懸命に働いている人を貶したくないからポジティブに見ているんだ。でも、僕がそれをやれと言われたら、新しい仕事を探すと思う。

日本人が求める「いかに大谷が素晴らしいか」

ディラン サム、日本の記者が君に質問しているのは、責任を逃れるためだよ。大谷がクソみたいなプレーをしても、彼らは直接はそう言わない。「サムが言うには」と書いて記事になるんだ。「大谷はダメだ」とアメリカのメディアが言っていると。

トモヤ 「ディランが言うには」もね。

サム そういうインタビューでは、大谷について否定的なことは、ほとんど言わなかったような気がする。彼らが求めているのは、「いかに大谷が素晴らしいか」についてだと感じることもあったし。

トモヤ 僕もそれを感じることがある。特にテレビの取材で、「大谷は素晴らしい」の結論ありきで、質問してくる。それに合うようなコメントを欲しがっているのが伝わってくる。

ディラン 今は順調だけど、特に大谷の最初の3年間は、否定的なものであれば、僕らが書くのを待ってから、「現地メディアはこう言っている」って報じる。面白いことに、時々、彼らは僕にアイデアをくれて、僕がそれを書くように仕向けて、その内容を記事にするんだ。元々、彼らのアイデアだったのに。

サム 勉強になるなあ。

ディラン 黒田博樹がドジャースにいた頃(2008~2011年)、ずっと黒田に貼り付いていた記者がいた。彼と黒田は仲が良くて、毎日そこにいる唯一の記者だから、特ダネを手に入れることができたんだ。だから僕も、彼の書いた記事を読んで、それをもとに黒田に話して記事を書いた。そしたら、その記者は、私の記事を記事にするんだ。「ディランによると」って。

 僕が記事にしたってことが日本ではニュースになる。「アメリカのメディアは黒田について、こう報じている」ってことに日本人は興味があるんだ。僕も実は日本人なのに。でも、だからこそ、日本人がアメリカ人に従属的になっていることを少し危惧している。トランプを当選させたような国民なんだから、俺たちの言うことになんて絶対に耳を傾けちゃダメだ。

サム 100パーセント同意だね。

ディラン まだ第二次世界大戦の傷跡が残っているんだろうね。だから、アメリカの言うことは今でも奇妙なまでに重視される。

僕は週に3度くらい日本の記事に登場する

 日本の記者の誰もが、アメリカ人の誰よりも野球に詳しいにもかかわらず、なぜか僕はいつも週に3度くらいは日本の記事に登場する。いつも彼らにこう言っているんだよ。「この15年間、いつも引用してきたディラン・ヘルナンデスは、野球について何も知らないってことを記事にしろ」と。試合中は居眠りするし、パソコンでサッカーの試合を見てることもあるってことを。

 テレビの取材の時は、日本語でも話す自信はあるんだけど、4分の3くらいは英語で話してくれと頼まれる。それも日本語で質問してきて、英語で答えさせようとする。僕にアメリカ人ぽくしてほしいんだろうな。その方がステータスが上がるから。アメリカのどうしようもない教育を受けてきた僕の意見が、なぜか重視されるんだ。笑えるよ。理解できないし、ちょっと問題だと思う。アメリカのやり方にただ従うんじゃなくて、日本には、ある意味でもっと世界をリードするようになってほしいと願っている。話が逸れて申し訳ない。

トモヤ 僕も「海外の反応」を気にする傾向はやめた方がいいと思っているよ。劣等感の裏返しだし。日本のテレビ番組なんかが、エンゼルスタジアムで明らかに白人を狙ってインタビューして、彼らに「オオタニサーン」って言わせたり、大谷がいかにすごいかを語らせるのを見てると、日本人として恥ずかしくなる。僕も、ある雑誌の取材で、トム・シムラさんと記事で紹介させてもらっていいかと聞かれたことがある。志村朋哉よりアメリカ人っぽいから。

〈「エンゼルスで起きていた“ある騒動”…代理人バレロに苦言」編へつづく〉

2024-04-19T02:05:54Z dg43tfdfdgfd