トヨタ自動車が都市対抗制覇の「ごほうび」で得たものは…

 「勝ったらごほうび!」。昨夏の都市対抗野球で東京ドームに表示された言葉を覚えているだろうか。トヨタ自動車の試合のたびに右翼フェンス上部の「リボンビジョン」に映し出された、豊田章男会長らの激励メッセージだ。優勝したトヨタ自動車の選手たちが得た「ごほうび」はどんなものだったのだろうか。

「旅行じゃないよ」

 白い雲、青く澄み渡った空……。例年なら沖縄県宜野座村などで春季キャンプをするトヨタ自動車の硬式野球部は2~3月、米国アリゾナ州で汗を流していた。都市対抗優勝のごほうびとして臨んだ米国強化合宿だ。

 都市対抗閉幕後にごほうびの内容が明らかになると、同社のX(ツイッター)の公式アカウントには「旅行じゃないよ」「アメリカで練習倍増!」「野球の本場でもっと強いチームになってこい!」と豊田会長のメッセージ入り動画が投稿された。その言葉通り、チームは「野球漬け」の約2週間を過ごした。

 滞在中、午前は米大リーグ5球団のキャンプ地を見学するなどし、選手やスタッフとも交流した。個々に技術を学んだ選手もいる。午後はグラウンドを借りて汗を流し、ドジャース、レンジャーズの3Aなどの選手と練習試合をした。終盤はテキサス州に移動し、現地の日本人の子供たち向けに野球教室を開いた。

「当たり前」を壊す

 選手たちが印象深そうに振り返ったのは、チームよりも個の力を伸ばすことに力を入れていた米球団のキャンプの様子だ。日本のように全員でシートノックや打撃練習をすることはなく、複数の球場を使って守備と打撃に分かれ、個の技術を伸ばす練習をしていた。

 主将の北村祥治内野手は「僕たちもこの1、2年は個の強みを伸ばし、それぞれが力を発揮すればチームの力になるということでやっている。もちろんチームとして戦わなければいけないが、個人個人でも打破できる力を付けていきたい」と、自分たちの取り組みにさらに確信を得た様子だ。

 練習試合ではマイナーチームの投手でも160キロ近い豪速球を投げていた。福井章吾捕手は「これまでは球を長く見るために間合いを長く取ろうとしていたが、それでは打てない」と痛感し、打席での間の取り方を変えるようになったという。冬場に取り組んできたスイング軌道の改良も相まって長打力がアップし、4月のJABA静岡大会では初戦でソロ本塁打を放つなど、さっそく成果が出た。

 選手が「文化の違いを感じた」場面もあった。ドジャースのメンバーとの練習試合では、メジャー契約の3選手の打席数を増やすため、毎イニング、まずはその3人を打席を立たせていた。他の6人は打順が回ってこないと、ほぼ「守っているだけ」の状況だった。

 日本なら「特別扱い」「ひいき」と言われそうな実力主義。メジャーの選手たちの威圧感、オーラにも刺激を受けたという北村内野手は「僕らも相手に脅威を感じさせることができれば、攻守に幅が広がると思いました」と話した。

 帰国後は選手間で頻繁にミーティングを重ねてきた。これまで当たり前だった道具の置き場所や練習の順番などをより効率的なやり方に変えるなど、小さなことから「より良くするには」との視点で一人一人が考えているという。

 藤原航平監督は「いろいろな文化を肌で感じて『僕らの当たり前は本当に当たり前なのか?』ということを知ることができた。『当たり前』を壊してチャレンジしていいんじゃないか、選手たちの『もっとこうしてみよう』という挑戦につながっていることが一番の成果」と語る。

 目標とする「都市対抗野球3連覇」へ、まずは2連覇を目指す今年。進化を続けるチームにとって大きなごほうびとなったようだ。【円谷美晶】

2024-04-17T23:11:47Z dg43tfdfdgfd