「ネリはノーチャンス。2ラウンドまでに試合は終わる」井上尚弥と激戦を繰り広げた元世界王者が予言する井上・ネリ戦「衝撃の結末」

日本ボクシング史上最大のビッグマッチのゴングが鳴る。世紀の一戦の予測を聞くために、井上を取材し続けてきた記者はマイアミへと飛んだ。井上、ネリ双方と拳を交わした元王者の意外な答えとは。【全3回の第3回】

「ビッグマッチ? そうは思わないな。すごく実力差があるんだから」

井上―ネリ戦の予想を問うと、パヤノは「語るまでもない」と言わんばかりに首を振った。

「井上のノックアウト勝ちだよ。ネリは2ラウンド持てばいいほう。その通り書いていいよ」

日本からの来客にサービストークをしているのではない。そこにはパヤノのボクシング観が潜んでいる。

「ネリはグッドファイター。すべてのメキシカンファイターと同じく屈強だ。だけど、それ以上ではない。相手に対するリスペクトもないし、傲慢な態度をとっていたんだ」

ある出来事を思い出し、半ば呆れ口調で続けた。

「計量会場に向かう際、ネリが自分のトレーナーと口論しているのを見たよ。体重もオーバーしていたし、それらは規律のなさからくるもの。ボクサーにとって一番大切なものが欠けている」

ボクサーとは過酷な職業だ。激しい練習を積み、食事を制限され、空腹状態でさらに限界まで追い込み、契約体重まで絞り上げる。苦行とも思える日々を乗り越えてきた者同士が殴り合う。放たれる拳から強さだけでなく、練習量や試合までの過程、人間性まで伝わってくることがある。

だが、ネリから特別なものは一切感じなかった。

「ネリはノーチャンス。二人と闘った自分が言うんだから間違いない。日々の規律、スピード、パワー、戦術、集中力、すべての面で井上が上回っている。ネリは誰と闘うのかをよく知るべきだね」

トレーナーのカイセードの試合予想はさらに辛辣だった。井上―ネリ戦について尋ねると、すぐに右手で首を斬るポーズをした。

「試合で起こることを言おうか。レフェリーが止めるか、ネリがキャンバスへと葬られるか、セコンドにタオルを投げられるか。結果は同じ。ネリはノーチャンス」

呆気にとられる私の表情をちらりと見て、カイセードはさらに続けた。

「ボクサーとしてのネリはもちろん魅力的だ。だけど、魅力的だけでは井上に勝てない。スピード、パワー、テクニック、パンチの的確さ。井上がすべての面で上回っている。井上のモーションのないパンチは、相手に打つタイミングを教えてくれない。そして凄まじい集中力。(二人の力の差は)数千マイル、数千光年離れているよ」

「だから怪物というんだろ?」

パヤノとカイセードの見解は「井上圧勝」で一致していた。

拳を交えた者にしかわからないことがある。井上の強さに驚愕したパヤノは、以前から親交があり、WBSSの準決勝で井上と対戦することになったエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)のキャンプ地を訪れ、助言をした。

「おい、井上のこと、本当に甘く見るなよ。パンチ力も半端ないぞ。細心の注意を払ってくれ。たとえ、どんな場面になろうとも集中して、彼の動きに気をつけるんだ」

井上―パヤノ戦から7カ月後、ロドリゲスは鼻から血を流し、苦悶の表情を浮かべ、2ラウンドでリングに沈んだ。

「気をつけろ、気をつけろと何度も言ったのに…。ロドリゲスでもああいうことが起きたんだ」

井上の試合において、詳細な展開まで見通すことは不可能だという。想像を遥かに上回る動きで、衝撃の結末へと導くからだ。

「ノニト(・ドネア)との試合だって、そうだっただろ? 井上はどの試合でも100%仕上げてリングに上がり、最高のパフォーマンスをする。心から尊敬する完全体のボクサーだよ。だから、みんな彼のことを『モンスター』って言うんだろ?」

パヤノは試合予想の話になってから、初めて笑みを浮かべた。

取材が終わり、ガレージを改造したボクシングジムを出ると、マイアミの青い空が広がっていた。

「試合は5月6日の夜8時頃だよね? こっちでは朝の7時か。早起きして観るよ。言った通りになるから」

自信にあふれ、だけど、柔和な口調でそう言った。「モンスター」と「悪童」、二人と闘った男の予言は的中するのか。その答えはまもなく明らかになる。

(取材/文 東京新聞運動部・森合正範)

2024-05-04T00:15:09Z dg43tfdfdgfd