憔悴気味の大谷翔平が一転して笑顔に…古巣エンゼルスが“祝福”演出、トラウトと固いハグも、記者が見た開幕直前「大谷のリスタート」

 胸にしまい込んだ複雑な感情が、完全に吹っ切れたわけではないだろう。

 ただ、25日に区切りの会見を終えたドジャース大谷翔平は、翌26日(日本時間27日)、古巣エンゼルスタジアムの観客席を、にこやかな表情で見渡していた。エンゼルス相手の第1打席。大谷が打席に入ったにもかかわらず、外野の大型スクリーンには、エンゼルス在籍時のハイライトシーン、さらに23年ア・リーグMVPを祝福するメッセージが映し出された。スタンディングオベーションが起こり、試合が止まると、大谷は青いヘルメットを頭上に掲げ、平日のナイターのオープン戦にもかかわらず、4万4377人が詰め掛けたスタンドに、笑顔で感謝の思いを伝えた。

僕も話したかった

 韓国での開幕シリーズ中の開幕戦の直後に、メジャー移籍以来、大谷の通訳を務めていた水原一平氏が違法賭博疑惑でドジャースから解雇された。直後は、各国メディアが次々と続報をSNSなどで流し続け、野球界にとどまらない大騒動に発展した。その後、大谷は球団側の徹底したガードもあり、沈黙を保った。それでも騒動は一向に収まらなかった。

 大谷が自ら口を開いたのは、本拠地ドジャースタジアムでエンゼルスとのオープン戦が行われた25日。記者会見とはいえ、質疑応答はなく、大谷がステートメントを発表するスタイルだった。それでも、「僕も話したかった」と素直な思いを明かした大谷は、予め用意された文章を読み上げるのではなく、時折、メモ書きを確認しながら、これまでの経緯、事実関係を、丁寧な言葉で、ほぼ時系列に沿って説明した。

「悲しい」「ショック」

「僕自身も信頼していた方の過ちで、悲しいというかショックですし、今はそういうふうに感じています」

 いつもと変わらず、落ち着いた表情ながらも、「悲しい」「ショック」の言葉に、過去数日間の苦悩をにじませた。

救いとなった古巣との3連戦

 長距離移動、他国での開幕、違法賭博疑惑……。心身ともに憔悴気味だった大谷にとって、韓国シリーズ後のオープン戦3試合の相手が、すべて古巣エンゼルスだったのはプラスだったに違いない。初戦の試合前には、大谷自ら外野付近に集まっていた投手陣の輪に駆け寄って合流した。パトリック・サンドバル、カルロス・エステベスら親しかった選手だけでなく、医療、広報スタッフらと気さくに談笑し、グラウンド上では記念撮影を繰り返すなど、終始、笑顔が絶えなかった。2戦目、3戦目の試合前には、盟友マイク・トラウト、テイラー・ウォードら野手陣とも固いハグを交わし、旧交を温めた。それらの微笑ましい光景は、少なくとも事件の暗い影とは無縁だった。

監督は大谷の英語力に期待

 今後、MLBなどによる本格的な捜査が進められるため、処遇について不明な点は多い。もっとも、シーズン途中で通訳が解雇される不測の事態が起こったとはいえ、現時点で大谷のプレーに直接大きな影響を与えることは考えにくい。ドジャースのデーブ・ロバーツ監督は、事件後、大谷が同僚や首脳陣と、通訳なしで直接コミュニケーションを取る機会が増えていることを明かし、前向きな要素として挙げた。

「彼がどれほど多くの英語を知っているか、みんな驚くと思う」

 暫定的に通訳を務めているウィル・アイアトン氏は、本職でもあるデータ管理などの業務があるため、大谷が自発的にコミュニケーションを図ろうとしているのかもしれない。ロバーツ監督は、そんな大谷の積極的な姿勢を頼もしそうに見つめた。

気持ちを切り替えるのは難しいですけど…

 米国開幕前のオープン戦3試合では、6打数無安打2四球3三振と、古巣相手に沈黙した。それでも、一連の騒動がひとまず沈静化し、体調面での不安もない。

「気持ちを切り替えるのは難しいですけど、シーズンに向けてまたスタートしたいですし、今日まずお話しできて良かったとも思っています」

 会見で残した言葉は、本心だったに違いない。

 だが、立ち止まっているわけにはかない。自らの意思で口を開いたのも、過去に経験したことのない難局を乗り越え、次に進むためだった。

 念願のポストシーズン進出を見据え、心身ともにリセットを終えた大谷は、また新たなスタート地点へと向かった。

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