清原和博の長男、慶応大の正吾に大化けの予感 スカウトが「指名の可能性ある」理由とは

春の東京六大学リーグで、慶応大の4番打者、清原正吾(4年)に注目が集まっている。NPB(日本野球機構)の西武、巨人などで活躍し、通算525本塁打の記録をもつ清原和博氏の長男だ。プロのスカウトも、その「伸びしろ」に視線を注いでいる。

 今秋のドラフトで複数球団による争奪戦が必至の大学生といえば明治大の宗山塁(4年)だろう。遊撃の守備はプロでも十分に通用するレベルで、打撃も柔らかさと力強さを兼ね備えている。ある在京球団のスカウトは「宗山は別格。欲しくない球団はないでしょう」と言う。

 ただ、このスカウトがほかにも注目しているのが、慶大の清原だ。

「大学4年になって急成長する選手が毎年出てくる。今年楽しみなのが清原正吾。正直まだNPBで通用するレベルには達していないが、伸びしろはすごい。どれだけアピールできるか楽しみですね」

 清原和博氏の息子といえば、次男の勝児も注目された。昨年は慶応義塾高校野球部で春夏連続甲子園に出場し、夏には107年ぶりの全国制覇に貢献した。

■中学ではバレーボール、高校ではアメフト

 一方で長男の正吾が野球で注目されたのは、大学に入ってから。それもそのはず、その歩みは異色のものだった。

 小学3年のとき少年野球チーム・オール麻布で野球を始めたが、中学以降は野球から離れた。慶応普通部でバレーボール部、慶応高校ではアメリカンフットボール部に所属。6年間のブランクを経て慶大の野球部に入部した際は大きな反響を呼んだ。

 身長186センチ、90㌔の恵まれた体格だが、同級生や先輩との技術の差は大きく、守備では後れを取った。それでも父親譲りの長打力は目をみはるものがあり、1、2年生が出場するフレッシュトーナメントで2年春は全3試合で4番を務めた。2年秋の早大戦でリーグ戦初出場を果たすと、3年春は「7番・一塁」で開幕スタメンをつかみ、法大3回戦で初安打を放った。

 アマチュア野球を取材する記者は期待を込める。

「チームメートに聞くと、『正吾は努力家』と口をそろえます。器用なタイプではないので入部当初は守備でミスが目立ったが、必死に練習していました。打撃はまだまだ粗削りですが、数少ない長距離砲として希少価値がある。気持ちの強さも魅力です。3年春の途中でベンチ外となり、3年秋もメンバーから外れてスタンドから応援していたが、気持ちを切らすことなく練習に打ち込んでいた。Bチームで4番を任されるなど目をみはるほどの成長を見せています。大化けする可能性は十分にありますよ」

 慶大は変革期を迎えている。昨秋に4季ぶりの六大学リーグ制覇を遂げ、明治神宮大会で4年ぶりの優勝を飾ったが、主将の廣瀬隆太(ソフトバンク)、栗林泰三(JR東日本)、宮崎恭輔(パナソニック)と打線の中軸を担っていた右の強打者たちが一斉に卒業。堀井哲也監督が、新チームの4番として白羽の矢を立てたのが、3年まで目立った実績がなかった正吾だった。

■4番で2試合連続タイムリー

 今春のリーグ戦開幕戦となった4月13日の東大戦1回戦。正吾は「4番・一塁」でスタメン出場し、3回1死一、三塁の好機でセンターの頭上を越える先制適時二塁打。この一打が打線に火をつけ、4回までに5点のリードを奪って快勝した。

 翌14日の東大戦2回戦でも初回無死一、三塁で回ってきた打席で右前にはじき返し、2試合連続となるタイムリー。母・亜希さんの誕生日に最高のプレゼントとなる一打を放ち、開幕カード2連勝に貢献した。

 正吾は最終学年を迎えるタイミングで、NPBの舞台でプレーしたい思いをメディアで明言している。3年秋のリーグ戦で1本も安打を打っていない現実を考えれば、無謀ともいえる厳しい道だ。だが、覚悟の上だろう。

 大学3年までは目立たなかったが、4年で活躍してドラフト1位で入団した選手もいる。上武大から中日に入団したブライト健太。3年秋までは控えだったが、4年春のリーグ戦で外野の定位置をつかむと、打率.383、3本塁打、12打点の活躍でMVPを受賞。全日本大学野球選手権でも2本塁打を放ち、チームのベスト4進出に貢献した。

 パ・リーグの編成担当はこう分析する。

「清原の場合、アピールポイントは長打力になるでしょう。NPBは投高打低が進んでいるので、長距離砲の価値が高まっている。打球を遠くに飛ばせるのは稀有な才能です。春秋のリーグ戦でどれだけ量産できるか。計10本近い数字を残せば、ドラフトで指名される可能性が出てくると思います」

■「彼に必要なのは実戦経験」

 一方、独立リーグで監督を務める元プロ野球OBはこんな助言をする。

「プレーを映像でチェックしていますが、まだNPBの指名でかかる段階ではないと思います。ただ、大学で野球に区切りをつけるのはもったいない。中学、高校と野球をやっていないのに、わずか4年で慶大の4番を打つことは凄いことです。それだけの潜在能力がありますが、まだ生かし切っていない。個人的には大学を卒業した後、社会人野球に進むより独立リーグでプレーしてほしいです。独立リーグの方が試合に出るチャンスが多いし、年間の試合数も多い。彼に必要なのは実戦経験。試合を重ねることで自分の武器や磨かなければいけない能力が見えてくる。独立リーグで2、3年プレーしてNPBに挑戦するのも決して遅くありません」

 近年は独立リーグからNPBで活躍する選手が増えている。昨年のWBCで侍ジャパンに選出された湯浅京己(現阪神)はBCリーグ・富山から18年ドラフト6位で入団した。20年に広島から戦力外通告を受けて退団した藤井皓哉は四国アイランドリーグplus・高知で力を磨き、22年に育成枠でソフトバンクに入団。同年に55試合登板で5勝1敗22ホールド3セーブ、防御率1.12とセットアッパーで大ブレークした。野手で楽しみな存在が、ルーキーの井上絢登(DeNA)。福岡大を卒業後に四国アイランドリーグplus・徳島でプレー。2年連続本塁打、打点の2冠に輝き、ドラフト6位で指名された。同じパワーヒッターで大学、独立リーグを経てNPB入りした歩みは、正吾の参考になるかもしれない。

 スター性のある選手だけに、正吾の今後の活躍が楽しみだ。日本のプロ野球界で数少ない「親子鷹」が誕生するだろうか。

(今川秀悟)

2024-04-19T02:45:06Z dg43tfdfdgfd