藤井聡太の八冠達成に「嬉しくなかった」と語る“破格の新人棋士”…強豪をなぎ倒す藤本渚(18歳)とは何者か?「豊島先生に勝てたことは…」

 破格の新人棋士が現れた。

 藤本渚。

 2005年生まれの18歳で、最年少棋士である。'22年10月にプロ入りしたニューフェイスが、'23年度に驚異的な好成績を挙げたのだ。

 51勝9敗で勝率8割5分ジャスト。藤井聡太竜王・名人の8割5分2厘(46勝8敗)にはわずかに及ばなかったが、不世出の天才棋士と年度末まで勝率1位を争った。'23年度の優秀棋士を表彰する将棋大賞では、新人賞と最多勝利賞を受賞した。

 まずは'23年度をどう振り返っているのだろうか。

「自分の実力以上のものを出せました。勝率8割5分はさすがにできすぎで自分でもびっくりしています」と初々しさ全開のコメントを寄せてくれた。一つの黒星が白星に入れ替われば藤井を抜くのはもちろん、中原誠十六世名人が1967年度に達成した歴代年間勝率記録8割5分5厘(47勝8敗)をも上回っていた。56年も破られていない大記録に接近した新人棋士などかつて存在しなかった。

「確かに優勢な将棋を負けたことも結構あるんですよね。でも勝った将棋は逆転勝ちがかなり多い。苦しい将棋をここまで拾えたのなら文句はないです」と藤本は苦笑する。

豊島将之九段にも勝利…強豪をなぎ倒してきた藤本

 本誌の読者に覚えておいていただきたい。さすがに8割5分は別格だが、有望な新人棋士を見分ける方法は勝率ではない。上位を目指す新人なら7割くらいは勝つのが当然なのだ。いや、勝たなくてはいけない。大事なのは例えば順位戦A級などに所属するトップ棋士から白星を挙げているかどうかだ。

 藤本は佐藤天彦九段や菅井竜也八段といった強豪をなぎ倒していた。そして新年度に入り、王位リーグで豊島将之九段に勝利したのだ。4月から開幕した名人戦の挑戦者に黒星をつけたのはまさに衝撃だった。

「序盤はVS(1対1の研究会)で指した形になって、時間差をつけることができました。未経験の局面で微妙な手を指して形勢を損ねたのは反省しています。少し形勢は悪いと思っていましたが、崩れずに指せたことがよかった」と話す。

 逆転勝ちは藤本の得意技だが、豊島だって終盤は桁違いに強い。にもかかわらずひっくり返すとは……。これで王位リーグは2勝1敗となった。豊島に勝ったとなると挑戦権獲得も見えてくるが――。

「豊島先生に勝てたことは自信にはなりました。リーグ戦はあと2局ありますが、あまり考えすぎてもいいことがないので一局一局区切って指したいです」と冷静に語る。

藤井聡太の八冠達成に「嬉しくなかった」理由

 藤本は今年2月に高校を卒業したばかり。大学には進学せずに将棋に専念する。

「自由な時間が増えるので、遅寝遅起きが習慣になりそうで怖い」と冗談交じりに語っていたが、卒業から1カ月が経って「将棋の勉強時間は取れています」と語る。対局日は8時少し前に起床するが、そうでない日は8時半に起きているという。それなら大丈夫だろう。

「将棋中心の生活は変わりません。変わっちゃいけないと思う」とキッパリした口調で語っていた。

 現役最年少の藤本は、昨年10月に藤井竜王・名人が八冠全制覇を達成してから、「ポスト藤井」の筆頭としてメディアでよく名前が挙がるようになった。無敵の勝ちっぷりを見せる21歳の最強棋士に対抗できるのは藤井よりも年齢が若い棋士と見るのは自然だが、藤本はその予想に違わない活躍を見せている。

 藤井が八冠を達成した日、藤本はABEMAで中継を見ていた。

「(八冠達成は)嬉しくなかったです。だから(対戦相手の)永瀬先生(拓矢九段)を応援していました。もちろん藤井先生を嫌いなわけではないですし、すごく尊敬しています。ただその対局は本当に永瀬先生を応援していたので。それこそ永瀬先生が最終盤で間違えたことに気づいて苦しんでいる姿を見て泣きそうになりました」

 ミスターチルドレンやスピッツを好む藤本は文化系男子のような繊細な佇まいだ。少し照れたような話しぶりが特徴だが、言動は率直である。

 藤井とは非公式戦のABEMAトーナメントで一局だけ指している。「負けたんですけど、やっぱり実力の差が歴然とあります。自分は本当にまだまだです」と語る。まずは眼前の対局で、王位リーグや王座戦の挑戦者決定トーナメントを一つずつ勝ち上がることで藤井の姿が鮮明になってくる。「王座戦は一局は勝ちたい」と謙虚だが、期待は大きい。

 少しでも将棋に興味がある読者は、海の日に生まれたから「渚」という美しい名前を持つ超有望株をぜひ記憶してほしい。絶対に損はない。

藤本渚Nagisa Fujimoto

2005年7月18日生、香川県出身。井上慶太九段門下。'22年に現役最年少棋士として四段昇段。'23年に加古川青流戦で優勝を果たし、'24年五段、C級1組に。5月より王座戦挑戦者決定Tを戦う。

2024-04-28T21:12:18Z dg43tfdfdgfd