西日本に続々サッカースタジアムが建設される「怪」

広島の新スタジアム「ピースウイング広島」

今年の2月、広島市に新スタジアム「ピースウイング広島」がオープンした。球技専用競技場でJリーグ、サンフレッチェ広島のホームスタジアムとして使用されているが、Jリーグ開幕戦には2万7545人が集まった。その後、4月3日までに4試合が行われたが、いずれも2万5000人以上が来場。昨年のJリーグでの広島の平均入場者数は1万6128人だったから約60%の増加ということになる。

一昨年、昨年と2年連続でJ1リーグ3位に入った広島は今シーズンも好調を維持しており、新スタジアムでの9年ぶりの優勝を目指したいところだ。

“新スタジアム効果”はJリーグだけではない。女子サッカーのWEリーグでも新スタジアム最初の試合となったアルビレックス新潟戦には4619人が入場。昨シーズンのWEリーグでの広島の平均入場者数は1089人だったから、こちらはなんと4倍増だ。

建設費約250億円と言われているが、これだけの観客動員ができれば十分に元が取れる投資だったと言っていいのではないか。

昨年までの広島の本拠地は1994年に開催された広島アジア大会のメインスタジアム、広島ビッグアーチ(広島広域公園陸上競技場)だった。

こちらは陸上競技場だからスタンドからピッチまでの距離が遠く、メインスタンドの一部を除いて屋根が付いておらず、雨天時には雨に濡れながら、あるいは夏の強烈な日差しに曝されながらの観戦を強いられた。さらに、広島市内からは新交通「アストラムライン」やバスを使って30分以上かかるのでアクセスも悪く、入場者数は伸び悩んでいた(そもそも、築35年が経過しているだけに施設も老朽化していた)。

一方、広島市の中心部に完成した新スタジアムは平和公園や原爆ドームからも近く、中央公園広場からのコンコースがスタンドまでつながるなどアクセスは抜群。球技専用なのでスタンドからピッチまでは8メートル。そして、スタンド全面に屋根が付くなど観戦環境も大幅に改善された。

スタジアムは広島市が事業主体となって建設されたが、完成後にはチームの運営会社、株式会社サンフレッチェ広島が指定管理者に選定されることが予め想定されており、最初からJリーグでの使用を目的に設計されただけに様々な工夫がなされている。

たとえば、30人程度のグループでくつろげる「パーティーテラス30」やテーブル付きで横に並んで座る「カウンターシート」など席種はJリーグで最多の42種に分かれ、ラウンジやレストランも充実している。

日本各地で相次ぐ新スタジアム建設

Jリーグ開幕から30年以上が経過したが、最近は新しいサッカー専用あるいはラグビー兼用の球技専用スタジアムが次々と建設されている。

2016年には大阪府・吹田市にガンバ大阪の本拠地、パナソニック・スタジアム、2020年には京都府亀岡市に京都サンガFCの本拠地、京都サンガスタジアムが完成。さらに、2021年には大阪市の長居球技場が大幅改装されてセレッソ大阪の本拠地ヨドコウ・桜スタジアムとなった。そして、これらの球技専用スタジアムは、いずれも各Jリーグクラブが指定管理者となって運営されているのだ。

ことにパナソニック・スタジアム(吹田市立サッカースタジアム)はガンバ大阪が募金団体を設立して寄付金などを募って建設を行い、完成後にスタジアムを吹田市に寄付。そのガンバ大阪が指定管理者となって運営するという新しいスキームが採用された。

他のスタジアムの建設主体は各自治体ではあるが、いずれも設計前から各クラブが指定管理者として運営することを前提に建設されたものだ。

こうした「公設民営方式」の先駆けとなったのは神戸市の「神戸ウイングスタジアム」だった。

神戸市が兵庫区御崎公園内の旧神戸中央球技場を2002年ワールドカップのために全面改装するに当たって、神戸製鋼所と大林組の共同企業体が設計・施工を行い、完成後には両社の共同出資で設立された「神戸ウイングスタジアム株式会社」が指定管理者として運営を行ってきた(現在はヴィッセル神戸の運営会社「楽天ヴィッセル神戸」が運営管理を行っている)。

新スタジアム建設の動きはこれからも続く。今年2月には広島のほか石川県金沢市にも金沢ゴーゴーカレースタジアムが完成し、さらに9月には長崎市に「長崎スタジアムシティ」が完成する予定だ。

これは、JR長崎駅そばの造船所跡地に「ジャパネットホールディングス」が主体となって建設を進めているもので、2万人収容のサッカースタジアムのほかバスケットボールBリーグで使用される5000人収容のアリーナを含む複合施設で、スタジアムと一体となったホテルやオフィス等も併設される、まさに画期的なスポーツ複合施設となるはずだ。

こうした新しいスタジアムは20世紀までのスタジアム像とはまったく異なるものだ。

変化するスタジアムの役割

かつて、スタジアムは都市近郊の公園など広大な土地に建設され、陸上競技やサッカー、ラグビーの兼用とするのが普通だった。毎年開催されてきた国民体育大会(現、国民スポーツ大会)のために、各都道府県はこうしたスタジアムを建設してきた。

Jリーグで使用されているスタジアムでも、たとえば横浜F・マリノスの本拠地で2002年W杯や2019年のラグビーW杯で決勝戦が行われた横浜の日産スタジアムやFC東京と東京ヴェルディが使用している味の素スタジアムなどは、もともと国体のために計画されたスタジアムだ。

こうした陸上競技と球技兼用型の巨大スタジアムは世界的にも一般的な存在だった。

だが、20世紀末頃からヨーロッパのサッカーでも、アメリカの野球(MLB)やフットボール(NBA)でも都心部に立地し、ホテルや会議場、ショッピングセンターなどを併設するスタジアムが増えてきている。それによってイベント開催時以外にも人々が集まることでコミュニティーの中核となることができるし、スタジアム側の収入源にもなるのだ。

どうやら、日本にもそうした流れがようやく到達したようだ。

野球場でも2009年には広島に「マツダズーム・ズームスタジアム」が完成。さらに、2023年には北海道日本ハムファイターズが札幌近郊の北広島市に「エスコンフィールド」を完成させた。これらの野球場は球団自身が主体となって設計・施行から運営までを行っているもので、いずれもファウルグラウンドを狭くして観客席からフィールドまでの距離を短くするなどアメリカのボールパークに近い、観客目線を優先した設計になっている。

ところで、今回は最新のサッカースタジアムをいくつかご紹介したが、その多くが西日本に立地していることにお気づきだろうか?

東京都や神奈川県など首都圏にももちろん多くのJリーグクラブが存在する。だが、ほとんどは20世紀のうちに完成した比較的古いスタジアムを使用しており、その多くが陸上競技との兼用競技場なのだ。

それは、いったい何故なのだろうか? いずれ稿を改めて考えてみたい。

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