首位打者・大谷翔平の得点圏打率.130だが「トラウトらと同じで問題ない」ワケ…初球打ち打率4割、39本塁打もスゴい中で“データ以外の懸念”

大谷翔平がナ・リーグ安打数でトップに立つともに、松井秀喜氏を超えるメジャー通算176本塁打を放った。一方で得点圏打率について取りざたされるなど、話題になったスタッツから序盤戦の大谷を読み解いていく。(全2回/第1回も配信中)

 松井秀喜のMLB通算本塁打を抜いた大谷翔平だが、相変わらず安打を量産している。4月23日終了時点でリーグ1位の36安打、僚友ムーキー・ベッツより2本多い。打率は.364でナ・リーグ1位だ。

大谷は1割台の一方でベッツが“5割超え”

 大谷翔平は昨年、リーグ2位の21敬遠(IBB)、エンゼルス時代はなかなか勝負してもらえなかったのだが、今季は1番ムーキー・ベッツ、3番フレディ・フリーマンと2人のMVP男に挟まれた2番を打ち、現時点でIBBは0。勝負してもらえているから、安打数も増えている。

「首位打者」はイチローが2回獲得しているが、日本人では彼だけだ。そして「最多安打」は、イチローが7回も記録しているが、他の日本人選手は記録していない。MLBの打撃タイトルではないが「シーズンで最も多くの安打を打った男」は、首位打者と共に記録男・大谷翔平の新しい勲章になるかもしれない。

 ところで、大谷翔平の「得点圏打率」が低いことが一部で話題になっている。

 得点圏とは走者が二塁以上にいる状況のこと。MLBではRISP(Runners in Scoring Position)といい、データサイトに載っているごく一般的な指標だ。

 4月21日終了時点で大谷の得点圏での打撃成績は

 15試23打3安0本5点、打率.130

 ナ・リーグ規定打席以上の92人の中で86位だ。これはいくらなんでも低すぎるだろう、という話である。ちなみに得点圏での打率1位は、僚友ムーキー・ベッツ。なんと.529(14試17打9安1本13点)。ここまでのドジャースを引っ張ってきたのは、ベッツだと言える。

過去、大谷の得点圏は「通算打率より少し高い」

 だとすると大谷の得点圏での打率の低さは「どげんかせんといかん!」のか?

 筆者は全く問題ないと考える。

 大谷翔平のシーズン通算打率と得点圏での打率を年度別に並べてみよう。比率のカッコ内は得点圏打率÷通算打率である。

 2018年/打率.285/得点圏.350/比率(122.8%)

 2019年/打率.286/得点圏.292/比率(102.0%)

 2020年/打率.190/得点圏.143/比率(75.3%)

 2021年/打率.257/得点圏.284/比率(110.5%)

 2022年/打率.273/得点圏.314/比率(115%)

 2023年/打率.304/得点圏.317/比率(104.3%)

 2024年/打率.364/得点圏.130/比率(35.7%)

 通 算/打率.278/得点圏.289/比率(104.0%)

 2020年と今年を除いて、大谷はシーズン通算打率より「少し高い得点圏打率」を上げていることがわかる。2020年はコロナ禍でのショートシーズンであり、大谷は1度目のトミー・ジョン手術の回復途上にあったが、右腕を故障するなど調子が上がらないままだった。それを除くと大谷は得点圏でコンスタントに打ってきたことがわかる。

実はトラウト、ジャッジらも大谷と同じ傾向

 実は「通算打率より少しだけ得点圏打率が高い」のは、MLB打者の一般的な傾向である。

 昨年までの大谷の僚友だったエンゼルス、マイク・トラウトは通算打率.300、得点圏打率は.302、ヤンキースのアーロン・ジャッジは通算打率.279、得点圏打率は.284、カージナルスのポール・ゴールドシュミットは通算打率.292、得点圏打率.304である。大谷もほぼ同じ傾向を示している。

 一線級の打者は、シーズンに600回前後も打席が回ってくる。無走者も、得点圏も何度も経験する。走者がいる方が多少はモチベーションは上がるだろうが、無走者でもテンションが下がるというものではない。常に安打、本塁打を狙っている状況にそれほど大きな差は生まれないだろう。

データ的に得点圏打率が確実に上がると見るワケ

 そもそも「打率」は、セイバーメトリクス的には「信頼すべき指標」とはみなされていない。

 セイバーメトリクス研究家のボロス・マクラッケンは複数の投手のデータを調査して、投手の被打率はその能力にかかわらず、長期的に見ればリーグの平均打率の前後に落ち着くことを発見した。つまり被安打は、投手の能力ではなく、その他の要因によって記録されるとし、投手がコントロールできるのは「奪三振、与四球、被本塁打」の3つの要素だけだと断定した。

 それ以外のフェアグラウンドに飛ぶ打球は「運の産物」で、投手は安打になることを阻止できない、ということだ。

 マクラッケンは、投手の本塁打を除く被打率であるBabip(Batting Average on Balls In Playを考案した。

 Babip=(被安打-被本塁打)÷(打者-与四死球-奪三振-被本塁打)

 これは、端的に言えば安打の中の「運の要素」の率だ。

 Babipは長期的に見ていけば、どの投手もリーグの被打率に近い数字に落ち着く。例えばシーズン中にこの数字がリーグの平均値より高い選手は以後低下し、低い選手は以後上昇する傾向にある。

 また打者側から見ても、高い打率をキープしている打者でもBabipがリーグ平均より高い打者はいずれ打率は落ちていくし、低打率にあえぐ打者でもBabipも低い打者はいずれ打率が上昇する、との理屈だ。

 大谷翔平の打率は.364で、Babipは.410になっている。いずれ打率は下がっていくとみるべきだろう。得点圏打率は.130だが、得点圏でのBabipは.200と打率よりやや高くなっている。とはいえ両方ともに低いゆえに、現状の得点圏打率からほぼ確実に上がっていくとみていい。

「初球を狙いすぎ」との声も…今季打率.462

 もう一つ「大谷翔平は初球を狙いすぎる」との声もある。

 MLBとNPBの野球の大きな違いの一つが「積極性」だと思う。

 4月20日のメッツ戦で、ドジャースの山本由伸は2回1死から5番のDJスチュアートに155km/hの4シームを右翼席に放り込まれたが、山本とスチュアートはもちろんこれが初対戦。その初球を思い切り振ったのだ。打球速度176.5km/h、飛距離134.7m、打球角度19度。弾丸ライナーだった。

 投手がストライクゾーンに投げてくる、あるいは自分が想定するコースに来ると思えば、思い切って打てばよいのだ。

 今季、大谷が「ファーストピッチ」を打った打撃成績は以下の通り。

 13打数6安打1二塁打1三塁打1本塁打3打点、打率.462

通算でも初球に強く、打球速度も凄まじい

 実は大谷は「初球」が大好物で、年度別での初球を打った打撃成績は、こんなすごい成績になっている。

 

2018年/38打17安5本10点 率.447

 2019年/52打22安6本16点 率.423

 2020年/9打1安1本3点 率.111

 2021年/62打23安8本15点 率.371

 2022年/96打33安8本22点 率.344

 2023年/68打34安10本20点 率.500

 2024年/13打6安1本3点 率.462

 通 算/338打136安39本89点 率.402

 調子が上がらなかった2020年を除き、常に4割前後の高打率、それだけでなく初球本塁打も39本打っているのだ。

 MLBではストライクゾーンを積極的に攻める投球が多い。それを見越して大谷はバットを振っているのだろうが――それに加えて、大谷の打球速度が凄まじい。

 MLB公式サイトの「スタットキャスト」によると、現地4月22日時点で大谷の打球の初速スピードは最大で115.8mph(186.4km/h)だった。これは全選手中の4位で、ドジャースの打者では史上最速だった。また95mph(152.9km/h)以上の打球(ハードヒット)数は全選手中最多の47だ。そして23日のナショナルズ戦で放った6号本塁打では、118.7mph(191km/h)というキャリアハイの打球速度をマークした。

 この猛烈なバットスピードがあるから、大谷の打球は多少芯を外れても、角度が低くても遠くに飛ぶ。それによって安打になる可能性がグッと上がるのだ。

 大谷の初球狙いが広く知られるようになれば、ボールから入る投手も増えるだろう。とはいえ思い切ってバットを出す積極性がある限り、結果はついてくるのではないか。

むしろ懸念は「今季も休まない」こと

 筆者はそういう問題以上に、大谷が今季も「休まない」のではないか、と懸念している。

 ベッツ、フリーマンと大物のチームメイトがいるのだから、適宜休養を取るべきだと思うが――彼自身は、2番DHで162試合出る気ではないか、と思う。

 それに早くも5盗塁とリーグ10位タイ。第1回での松井秀喜との比較で触れたように「走れるスラッガー」ぶりを示すスタッツだが、それだけ怪我のリスクもある。

 大谷も今年で30歳になる。また今春は大変なことがあった。大谷翔平には少しは「自重する」ところがあっても良いのではないかと思う。

 名将ロバーツ監督はこれを重々承知して適宜休養を取らせるとは思うが――来年の二刀流復活に向けて、大谷翔平は自重しつつ頑張ってほしいと思う。<第1回「松井との比較」編からつづく>

2024-04-24T08:04:30Z dg43tfdfdgfd