大谷を支える真美子夫人の「包容力」 「一平ショック」乗り越え目指すは世界一

新たな歴史を塗り替えた。ドジャース・大谷翔平が4月21日のメッツ戦で、3回に右翼席へ運ぶ5号先制2ラン。弾丸ライナーで消えた打球は右翼手が一歩も動かない完璧な一撃だった。メジャー通算176号となり、松井秀喜氏を抜いて日本人メジャーリーガーの最多記録を更新した。

 日本で長距離砲として活躍していた選手でも、メジャーの舞台では本塁打のペースが大幅に落ちるのが通例だった。日本で通算332本塁打、3度の本塁打王を獲得した松井秀喜氏は、メジャーでは中距離打者に。シーズンで30本塁打を超えたシーズンは04年(31本塁打)の一度のみだった。筒香嘉智も日本で本塁打王のタイトルを獲得してメジャー入りしたが、結果は出せずこの4月に日本球界へ復帰した。

 だが、大谷は違う。本塁打のペースは、日本ハム時代が8.4試合に1本だったのに対し、メジャーでは4.2試合に1本と大幅にペースを上げている。今季は24試合出場時点で打率.368、5本塁打、13打点、5盗塁をマーク。自身のキャリアハイを超える数字を春先から順調に積み上げ、三冠王を狙える可能性も十分にある。

■超一流選手の「メンタル」

 現役時代に日米でプレーしたOBは大谷の凄みをこう分析する。

「松井さんもメジャーに行った時はヤンキースのチームメートの中で体が大きい方ではなかったが、大谷は違う。肉体強化の成果もあり、メジャーでもトップクラスのフィジカルモンスターです。打球速度、飛距離が抜きん出ている。もちろん技術面も凄い。タイミングを合わせるのが非常に巧く、初球から積極的に振る。相手バッテリーからすると、少しでも甘く入ったらスタンドに運ばれるので怖い」

 そして、一番感心するのは「メンタル面」だという。

「今季は新天地のドジャースで開幕直後にショッキングな不祥事に巻き込まれたにもかかわらず、グラウンドで心の乱れを見せず、常に高いパフォーマンスを発揮し続けている。まさに超一流の選手ですよ」

 ショッキングな不祥事――。つい1週間前までは日本だけでなく、米国のメディアでも大谷の通訳を務めていた水原一平容疑者の一件が大きく取り上げられていた。大谷の銀行口座に不正アクセスして1600万ドル(約24億円)を超える大金を違法なブックメーカーに不正送金していたことが判明。水原容疑者は違法ギャンブルに手を染めていて、これまでに約62億円の損失を被っていたとされる。

 韓国で行われたパドレスとの開幕戦の試合直後にこの不祥事がメディアで大々的に報じられ、水原容疑者はドジャースを解雇された。後に大谷は潔白であることが証明されるが、

「大谷も不正賭博に関わっていたのでは」

「水原一平はスケープゴートにされたかもしれない」

 などと報じる米国メディアもあった。

米国に駐在する通信員はこう語る。

「大谷が報道を見聞きしたかどうかは分かりませんが、信頼していた人に裏切られて大きなショックだったことは間違いない。記者会見で『正直、ショックという言葉が正しいとも思わない』と複雑な表情で語っていた姿が印象的でした。心の整理をつけるのは簡単ではなかったと思いますが、真美子夫人と愛犬・デコピンの存在が大きかったと思います」

■チームメートに頼られていた真美子さん

 大谷が真美子夫人との結婚を発表したのは2月29日。この時点では真美子さんの個人情報は明らかにしなかったが、3月15日にツーショット写真を公開した。

 真美子さんは元バスケットボール選手で19年から昨年まで4年間、富士通レッドウェーブでプレー。日本代表にも予備登録された実績を持つ。過去に真美子さんを取材したライターはこう明かす。

「努力の人という印象が強いですね。バスケットプレーヤーとして高い能力を持っていることは間違いないですが、派手さがあるわけではなく黙々と練習に打ち込んでチームを支えていました。チームメートからも頼られていましたし、包容力がありましたね。現役引退し、大谷と新たな生活がスタートする上で米国に居住経験がないので、真美子さんにとっても一平さんのことは当然ショックだったでしょう。ただ、結婚して一緒に生活を送ることができるようになったのはお互いにとって良かったと思います。大谷は自然体でいられるし、愛する人が近くにいて孤独を感じることがないですしね」

 米国で日本人選手の通訳を務めた経験を持つ関係者も同調する。

「メジャーでプレーするということは、米国で生活を送るということです。大谷はエンゼルスで6年間プレーしているので生活のペースはつかめていますが、一平は球場の送り迎えなどグラウンド外のサポートもしていて一緒にいる時間が長かったので、精神的支柱としても頼りにしていた存在だったと思います。今回の不祥事でチームを去ったことは大きなショックですが、真美子さんが同じ空間に一緒にいてくれるだけで心が安らぐ部分が間違いなくあるでしょう」

■「特別扱い」されないドジャースの環境

 一方、米国に駐在する通信員は、

「ドジャースでプレーすることが、大谷の精神的ショックを和らげる新たなモチベーションになる」

と分析する。

「低迷期が長いエンゼルスでは大谷にモノを言う人がいませんでしたが、常勝軍団のドジャースは違う。デーブ・ロバート監督は大谷に絶大な信頼を置いている良き理解者ですが、チームの勝利のために厳しいことも言います。今月16日のナショナル戦で大谷がマルチ安打をマークしましたが、3度の好機で凡退したことについて質問が及ぶと、『ショウヘイはとても積極的な打者だが、得点圏に走者を置いた場面でいつも以上に積極的だと思うので、落ち着かないといけない。投球を見るように伝えるつもりだ』と苦言を呈しました。エンゼルスではここまでストレートに言われることはなかったでしょう。ドジャースではスーパースターでも特別扱いしません。これは大谷にとって望んでいた環境じゃないですかね。ワールドシリーズ優勝を目指す上で、個人成績が良ければ評価されるチームではない。勝つことが宿命づけられたチームでプレーしたことは今までなかったし、能力が高い選手たちと切磋琢磨できて、刺激的な毎日だと思います」

 大谷が最も渇望しているのが、世界一の称号だ。松井氏はヤンキース在籍時の09年に、ワールドシリーズで13打数8安打、打率.615、3本塁打8打点の大活躍で9年ぶりの世界一に貢献。日本人選手史上初のワールドシリーズMVPに輝いている。

 大谷は日本ハムからエンゼルスに移籍後、在籍していた6年間で1度もプレーオフに進出できなかった。個人としては2度のMVPを受賞したが、心から喜べたとは言えないはずだ。

 グラウンド外の辛い経験を真美子夫人とともに乗り越え、未知の世界に向けて突き進んでほしい。

(今川秀悟)

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